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『Sweet Emotion』

 

 夏至も過ぎ、この北の地の夏の扉が開いた。
最高の風が吹いている。刺すような陽差しの中、それでもオートバイで走れば、吹く風の何と心地良いことか。草樹の甘い匂いが太陽の光とブレンドされ大地に吸収される。そして夕方、土がその芳香を放出し始める。その香りがたまらずに「オートバイの旅」へと誘うのだ。匂いを伴う記憶は何年経っても色褪せることはない。
 幾多の夏の夕方をオートバイで走って来た。近頃はめっきり、「ただ風がいい匂いだから…」という理由だけで走り出すことが少なくなったとは言え、そんな程度の理由だけで走り出すには充分であることは今でもとてもリアルに同感できる。
 走れよ、若者。その記憶と感情はタカラモノになる。だいたい日没後、西の空だけに夕陽の名残りがブルーのグラデーションを描く頃、ライディングジャケットを羽織る。北の夏の夜をナメちゃいけない。クリアーシールドに換えたフルフェイスを被り、エンジンに火を入れる。暖機が済んだ頃には走り始めたことを正解だったと確認している。
 より強い香りに誘われ、郊外へとオートバイを走らせる。やはり「北海道はイイ」と思う。ほんの数10kmも走れば他車はいなくなり、自分の世界に入り込める。ヘッドライトが照らす中、センターラインをたぐり寄せながら強さを増す香りにヤラレ始める。闇の中を走っていても、気配が森であり、川であり、海であり、感覚が研ぎ澄まされていく。
 ふと気が付くと、視界のふちに月と星を感じ、どこかで停まろうと思う。なかなか止まれないのは、ダンスを途中でやめたくないからかな。自らのリズムとテンポのナイトランは心地良い。何でもない、道路脇のスペースにオートバイを停め、エンジンを切った時、盛大な静寂の衝撃に驚く。キン・キン・・というエンジンが熱を冷ます音を聞きながら、ポケットのデミタスの缶コーヒーを開け、タバコを一服する。帰りの道程とガソリンの残量からして、今夜はここまで。
 北海道の夏は短いけれど、オートバイ乗りはその短い夏を他人の何倍も楽しみ、感じていられる。
 幸せだと思う。オートバイ乗りであること。
この北海道が自分の土地であること。そしてまた、いつもどうりの夏がやってきたこと…。
 ベタで悪いが今回はここまで。
 皆、自分に誇れる自分の愛機と気持ち良く甘い感情を堪能することを祈る。
ではまた!


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